残業手当はありません

気が向いたときに、ぼんやりとエントリするブログです。Twitterで書き切れないことを書きつける場所にしています。

龍王の娘は母の希望となるか(第52回シンザン記念のこと)

 フサイチパンドラの印象はあまりない。フサイチパンドラの優勝した2006年のエリザベス女王杯は、繰り上がり1着になった彼女よりも1位入線したカワカミプリンセスの斜行が印象に残っている。次の年の女王杯でも2位入線した彼女だったが、そのときは、ダイワスカーレットの危なげない強さだけが記憶に焼きついた。

 しかも、フサイチの馬は馬主さんやその周りを取り巻いていた人たちの印象が強すぎて、正直なところ、競走馬自体の印象がぼんやりとしている。フサイチコンコルドのダービー制覇にみられた一瞬の輝きが象徴するように、「フサイチ」という冠自体が90年代からゼロ年代の日本競馬(あるいはアメリカ競馬)を彩った徒花のようで、いまでもその実体をこの手につかむことができない。

 

 フサイチパンドラ龍王ロードカナロアとの間に生まれた牝馬、アーモンドアイが第52回シンザン記念を制した。縮地術でも用いたかのような末脚で、才能の違いをみせつける迫力があった。追わずともどこまでも伸びていくかのごとき姿は、母のしなやかさと父の力強さを正しく受け継いだものとみえる。

 2017年の暮れにフサイチパンドラが亡くなったために、その母の遺志を背負って走る娘という物語が読まれつつある。彼女を見守る人間の側で、母の忘れものをとりにゆく娘の物語への欲望がふくらみつつある。私自身、こういうふうにも思う。

 もしも「フサイチ」という記号が徒花であったとするならば、その末裔である彼女にもまた、徒花の血が流れているのだと。

 

 ならば、はかなく舞う桜の花こそアーモンドアイにはふさわしい。