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気が向いたときに、ぼんやりとエントリするブログです。Twitterで書き切れないことを書きつける場所にしています。

「てさぐれ!部活もの」が、新たな地平をきりひらく

 しばらくぶりのエントリです。

 ブログに記事をアップできるほど、精神的にも肉体的にも余裕がありませんでした。引き続き余裕はないのですが、時間的にはすこし空きができたので、ぼんやりとブログ更新を再開しようと思っています。

 

 年始に「てさぐれ!部活もの」(http://www.ntv.co.jp/tesabu/)というアニメーション作品をみました。

 日常系のアニメーションに慣らされ、女の子がたくさん出てくるアニメーションにも慣らされて、なんとなく日々のアニメーション享受に飽きつつあったところでした。なにか、これまでの枠を外してくれる作品はないかなと待っていたところに、すとん、と「てさぐれ!部活もの」がやってきた感じがします。

「新しい部活の形を模索し、日々話し合う」という謎の部活・てさぐれ部の部員たちのちょっとヘンな日常を描く( 中略 )本編の構成は、前半で「てさぐれ部がお題の部活について、その部活で起こるありきたりなこと(お約束)を語り合う」、後半で「その後、各自が考えた『このことが部活で起きたら“新しい”と思われるであろう』アイデアを発表し、部員たちが実際にやってみる」というものなっているが、後半の「新しいアイデア発表」時のセリフはほとんどが声優たちのアドリブ芝居を採用しており、いわば声優たちによる大喜利状態( 中略 )他の部員の斜め上すぎるアイデアに思わずキャラを忘れて素に戻ったり、ポソッと漏らした素の声がそのまま採用されていたり、本来ならカットがかかるはずのハプニングやミスがそのまま放送されたりと、演技やネタの面白さに加えて“声優の素の部分”も合わせて楽しめる作りになっている。

引用元:ニコニコニュース(http://news.nicovideo.jp/watch/nw791908

  内容としては、ここに書かれているとおりなので、特別に付け加えることはありません。とにかく観てほしいというのが、はじめにあります。ただ、それだけではこうしてエントリする意味もないですから、もう少しだけお話しようと思います。

 

1.日常系とアート系との弁証法的融合

 てさぐれ!部活ものの画面から受ける第一印象は、いわゆる日常系アニメのそれです。それぞれにタイプの違う愛らしい女子高校生たちが、きゃっきゃうふふするタイプの作品にしかみえません。みる側の期待、特に青年から壮年にかけてのオタク男子の期待を吸い上げる、ポップで単純、ストーリーらしいストーリーのないままに時間だけが進む、日常観察型作品と多くの人は考えるはずです。

 しかし、実際のところ、この作品はそういった萌え的側面を裏切ることに注力されたものなのです。萌えを期待される絵柄や設定を提示して、彼らの期待を引き受けるふりをしながら、それらのものをひとつひとつ丹念にひっくり返すことで、期待の地平から遊離していこうとする作り手の意図がみえます。

 途中までは、アニメーション作品のなかで起こりがち、ありがちなことをなぞるようにみせて、最後ではしごを外すという演出は、ポップなふり、日常を写生するふりで、幅広い層へ届ける体を偽装しているとよめます。実際には、アニメーションに関するリテラシーの高い層だけが読みとれるギャップを強調して、コア層の満足を引き出そうとする玄人(?)志向の作品といえるのです。

 

2.西明日香という爆弾・荻野可鈴という異物

 この作品を考えるとき、中の人(キャスト)がもっている資質も大きく影響しているといえます。そのなかでも特に、西明日香荻野可鈴のふたりがキャスティングされていなかったなら、ここまで爆発的なメタフィクション性を獲得できなかったと考えられます。

 まずは、シグマセブンe所属の女性声優・西明日香について考えてみます。

 サンプルボイス(http://www.sigma7e.com/profile/ew_nishi.html)を聴いてもらうとわかるのですが、地声の演技では比較的幼い感じの声質で演じられる女優さんです。彼女が注目されるようになったきっかけは、おそらく「洲崎西」(http://seaside-c.jp/program/suzakinishi/)というラジオ番組からだと思われます。この番組を通じて彼女が得たものは、もうひとりの番組パーソナリティである声優・洲崎綾との化学反応による、後先を考えない暴走スキルだと考えられます。このことで、単純なアイドル路線に進むかと思われた西の声優キャリアは、その枠をはなれて、いわゆる「フリーダム声優」の方向へと進むことになります。ニコニコ生放送で配信されたある番組では「萌えって、要するにかわいくセリフをいえばいいんでしょ」などのメタ発言もあり、それまで女性声優によって乗り越えられることのなかった線を、一気に踏み越えた感があります。その勢いは「てさぐれ!部活もの」においても発揮されています。

 もうひとりのキーパーソンである荻野可鈴は、モデル出身のタレントさんです。そのこともあってか、西や、共演している明坂聡美大橋彩香上田麗奈のような声優プロパーの女優さんたちとは少し違った存在感を出しています。アドリブ部での演技も、他のキャラクターが台本のある部分との差異を感じさせるなかで(その落差も魅力なのですが)荻野は、あまり変化を感じさせずに演じ切っています。そのことが他のキャストと比較したときの、よい意味での異物感を生み、その作品のメタフィクション性・メタアニメ性を担保しているように思われます。

 

 

  さて、上記の二つから考えると、単純な日常系アニメーションやアイドル性からの脱却が志向されているようにもみえます。日常系アニメーションが多く作られていくなかで、定型化していった萌え概念やデータベースのバージョンアップが求められるようになり、それに応えるひとつのかたちとして「てさぐれ!部活もの」のようなありようが試みられているのかもしれません。ただし、それはあくまで一部のコア層にしかささらないもの、ある意味ではアニメリテラシーを鍛えられた者を選別する装置のようなものなのかもしれません。そう考えれば、これをなにかの乗り越えとみる者自体、完全にアニメーションの沼にずぶずぶと入りこんで抜け出せないことの証明なのかもしれません。