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選ばれるのは、だれだ(第23回NHKマイルCの予想)

 思い返せばその兆候は、第1回のときからあった。

 タイキフォーチュンが勝った、というよりはファビラスラフインが負けたレース。2月終わりのデビューから、さわらび賞、ニュージーランドTまでを圧倒的な才能で3連勝した彼女が、激流に呑まれて惨敗したあのときから。

 ファビラスラフインはその秋、第1回の秋華賞を休み明けで勝ち、返す刀でジャパンCを2着。春の成績が実力を伴うものと証明した。そんな彼女でも勝ちきれなかったのがこのレース。

 あわせて思い出されるのはテレグノシスが勝った第7回。そのあとすぐにダービーを勝つタニノギムレットでさえも勝たせてもらえなかった。能力が高くても、実際のパフォーマンスにうまく結びつかないことが多い。そういう印象がこのレースにはある。

 他方、勝ち切ったことで道を拓いた者もある。過去にはエルコンドルパサークロフネキングカメハメハディープスカイなどが勝利して、後の戦いへの足がかりとした。

 さらには、早くからクラシックロードの中心を歩んだ者が、その力を証明する舞台でもあった。桜花賞ラインクラフトをはじめ、クラリティスカイメジャーエンブレム、アエロリット。彼ら彼女らがここで勝利することは、クラシック競走に優勝した者の繁殖馬としての「正統性」を担保することにもなる。

 ここまで過去の結果を振り返ったが、これらのことから考えた結論はこれだ。

 

 NHKマイルCを勝つためには、「レースに選ばれる」必要がある。

 

 このレースを勝つ馬には、競馬の神(あるいは女神)から勝利の意味を、あるいは敗北の意味を与えられる。このレースの結果はその馬だけのものではなく、ほかの馬の運命ともつながっている。それぞれのキャリアの結節点としてNHKマイルCは機能するのだ。

 勝てなかった馬たちのなかには、後にGIを勝った馬が何頭もふくまれている。

 しかし、そのときはまだ、勝利の順番ではなかった。完成度や成長力などの要素はあるだろうが、それを超えた不思議な力がはたらいているように思われる。そして、逆もまた。何かに押されるかのようにここを勝ち、そのあとはもう別の馬のように精彩を欠く者もある。(あたかもすべての力を、この一走で出し切ってしまったかのように)

 さて今回、勝つ順番は誰にまわってくるのか。

 チャンスの女神はだれに微笑むのか。

 

 

 ミスターメロディである。

 

 クールモアが力強くサポートしようと試みていたが、不運にも早くに亡くなってしまったスキャットダディ。

 彼が残した産駒からは多く活躍馬が出ているが、直近でも2017年にはカラヴァッジオ、レディオーレリアなどがGI勝ち。今年の春シーズンは、昨年のBCジュヴェナイルターフを勝ち、2018年UAEダービーを2着に18馬身半の差で圧勝してケンタッキーダービーの有力候補とされるメンデルスゾーンと、サンタアニタダービーを勝ったジャスティファイが注目される。

 ファルコンSを鮮やかに勝ったミスターメロディも、これらの活躍馬に加えていいだろう。

 父の日本国内での評判は、早熟で2歳の短距離戦ではいいけれどその後の活躍はどうだろうね、といったところだと思うが、スキャットダディのサイアーラインは、2020年代の世界競馬に少なくない影響を与えるだろう。欧州ではサドラーズウェルズ系、デインヒル繁殖牝馬の交配相手として。日本でもサンデー、キンカメに続く第三の男が求められており、その潜在的な期待がここにはある。

 相手は、フロンティアとする。父方がサンデーサイレンス×スカーレットブーケ、母方にトニービン×ゴールデンサッシュ。社台の地縁・血縁にまみれたこの血が、スキャットダディ系の到来を祝福することになる。

 

◎ミスターメロディ

◯フロンティア

▲リョーノテソーロ

△パクスアメリカーナ

△テトラドラクマ

△ルーカス

 

 人間の世界においてもアメリカの時代がおわって、これまでとは異なる価値が求められている。

 そして、未来を告げるその歌は、波乱に惑う人々のざわめきとともに「未開の血」の向こう側からやってくるのだ。そんな時代の空気もまた、競馬の神の選択に影響するものと私は確信している。