残業手当はありません

気が向いたときに、ぼんやりとエントリするブログです。Twitterで書き切れないことを書きつける場所にしています。

リラの花咲くあの丘で(ヴィクトリアマイルの反省と優駿牝馬の展望)

 土曜午前のレースを日吉が丘で観るのが好きだった。

 広い府中の競馬だから草競馬のおもむきとまではいかないけれど、それでも、日曜日にくらべて、のどかでゆるやかな時間が流れていた。いまの職場は土曜も仕事があるので、もうそんなゆったりとした時間は、若い頃の思い出になってしまったのだが。

 

 先週もしっかり馬券を外した。

 本命にしたラビットランは、走る気を抑えきれずに道中ですっかり消耗してしまった。才能のある彼女のことだから、再びどこかで末脚一閃、鋭い切れ味をみせてくれると期待する。

 それでも、勝った馬がジュールポレールだったことで少しだけ気持ちは晴れた。

 勝つときはいつも幸騎手と一緒の律儀な子。重賞やGIでの好走歴もあるのに、主な勝ち鞍:うずしおS、秋風Sのまま。そういう不器用さともいえるものを抱えた馬が、ここで栄冠を得たことをうれしく思う。

 他方で、これが4度目のGI2着となったリスグラシューチャンスの順番は今回も訪れなかった。関係する人ばかりでなく応援する人たちもまた、もどかしい思いを抱えているだろう。粘り強く挑戦を続けてほしい。

 

 さて、今週はオークスである。うら若き乙女らが、府中2400mの距離を走る。ライバルとの争いばかりでなく、苛酷な距離との戦いにも勝たなければならない。レースを使う側も観る側も、期待と不安、自身と疑心とが自分の内側でくるくると入れかわるような心持ちがする。

 そのようなレースだから、当然パートナーは気心のしれた相手がいい。乗り替わりなど、もってのほかである。

 最近はデビューからクラシックの終わりまで、一人の騎手が乗り続けることも少なくなってきた。当然のことなのだが有望な馬は有力な騎手に集まる。上位騎手が馬を選んだあとに、次のステージにいる騎手たちへ馬が回っていく。そのうえ、デビューした後も手替わりが頻繁に起こるものだから、人馬一体のイメージはどんどん薄くなってしまう。

 そのような競馬界の流れのなかで、石橋脩はラッキーライラックのデビュー以来ずっと、彼女との関係を守りつづけている。

 彼は、この世代のよい牝馬たちとの関係に恵まれ、オークスにはラッキーライラック以外にも、彼がデビューから長く関係を続けてきた馬たちが出走する。

 パイオニアバイオ、ロサグラウカ、オハナ。

 あせらず、馬を急がせずにレースをすることができている。今年は例年より一層安定している石橋の騎乗が彼女たちの成長にもつながったのだろう。

 そんな「モテ男」の石橋ではあるが、彼の愛はずっとラッキーライラックだけに捧げられてきた。桜花賞こそアーモンドアイの規格外の末脚に屈したが、負けてなお強しといった内容。この一度の負けで降ろされるようなことがなくて、ほんとうによかった。血統的にも距離延長に不安はない。あとは石橋が度胸を決めて彼女を導くだけである。

 相手筆頭はサトノワルキューレだ。

 こちらもミルコ・デムーロとともに人馬一体で、周到にオークスまでの準備を進めてきた。2400mの競走を2度使ってリハーサルを重ねており、距離に対する自信はこちらが上位だ。

 阪神から府中に変わって大きく有利になりそうなのは、ルーラーシップの仔であるリリーノーブルだ。父方はもともと長く脚を使える血統で、母方に入っているクロフネの血でパワーも補強された。いかにも府中に合いそうであり、逆転まであるかもしれないい。

 同じ父をもつパイオニアバイオも、馬券になる計算は充分に立つ。母のアニメイトバイオオークスで好走(4着)した。注目しておきたい。

 そして、忘れな草賞を勝ったオールフォーラヴ。

 エリモエクセルエリンコートミッキークイーンらが、このステップでオークスを勝っている。無視するわけにはいかない。

 

 アーモンドアイは、無印にする。

  

 シンザン記念桜花賞で、あれほどのパフォーマンスをみせた馬である。間違いなく勝つだけの資質はある。ただ、あまりにマイルで強すぎるものだから、何かしら死角があるような気がしてならない。

 強い桜花賞馬だ。印を打つならば◎以外はあり得ない。それが、あれほどのパフォーマンスをみせた彼女に対する礼儀だ。勝つときには、他の馬すべてをふたたび子供扱いにしてしまうだろう。しかし、現時点で私にはそのイメージはみえない。負けるとすれば馬券にならない負け方をする。だから、アーモンドアイには印を打たない。

 

 ◎ラッキーライラック

 ◯サトノワルキューレ

 ▲リリーノーブル

 △パイオニアバイオ

 △オールフォーラヴ

 

 馬産地の北海道では、ちょうど今ごろの時期にライラックの花が咲くのだという。

 ラッキーライラックという名はまさに、5月の府中を駆けるに相応しい名だと思える。

 リラの花(ライラック)、その花言葉は「青春の思い出」だという。

 人間でいえば中学生から高校を卒業するくらいまでの間が、まさにデビューからクラシックの季節にあたる。そんな「青春」を共に過ごした彼女と石橋脩の手に、樫の女王の称号が渡ることを願っている。

 

 それが友情の思い出であろうと、恋の思い出であろうと、あるいは戦友との強い絆の思い出であろうとかまわない。物語はハッピーエンドがいいよ。