残業手当はありません

気が向いたときに、ぼんやりとエントリするブログです。Twitterで書き切れないことを書きつける場所にしています。

逃げだしてしまいたいと思ったら、もう逃げていた

 嫌なことや考えたくないことがあると、とにかく家や職場から離れてひとりになろうとする癖がある。それがかなわないときは、風呂にこもる、便所にこもるなど、とにかく生活から自分を切り離す。物理的に日常をやれないようにするのだ。

 

 日常をやると、生活をやると、すきまの時間ができる。そこに魔が入りこんでくる。死んだ子の齢を数えるような、これ以上考えても仕方のないことを考えてしまう。思い出すだけて恥ずかしくて抹消したい出来事、あのときに戻ってやり直したいと思う後悔などが、意識にのぼってくる。そういう、自分を闇にひきこむ危うい感情(執着とか嫉妬とかいうやつだろう)を抱えながら、ひとつのところにとどまって落ち着いてしまうと、その瞬間に余計なことが思い浮かぶ。

 

 だから、移動しなければならない。移動することだけが目的の旅に出てしまう。当世風のいいかたをすれば、不要不急というやつなんだろう。けれども、これという観光をするわけでもない。食事はまあ、食うこと自体が好きだから、せっかくと思って土地のものを食うようにするが、それさえ目的ではない。長く滞在するならば、地元の人が暮らすように、ぼんやりとそこで生活をしたいとさえ思っている。特別でないものがむしろいい。生活を抹消するために、生活を上書きする。暮らす人のなかに溶けこんでしまいたいと思う。そのために、そこの街で暮らす人への擬態を試みる。

 

 とにかく逃げだしたいのだ。後ろ向きの感情が追いかけてくるから。その感情が自分を追いかけるのをあきらめるまで動きつづける、逃げつづける。知らない電車に乗るだけでも、みたことのない路地を歩きまわるだけでもいい。とにかく、日常と重ならない場所であればどこでもいい。現実からの逃避を果たせるならば、なんでもいい。そうして夢遊病の自分が遠くへゆく列車に乗るのを、もうひとりの自分が嘲笑っている。